アメリカのダイナーとその由来について

アメリカのダイナー(Diner)は、もともと電車内の食堂車や簡易食堂といった意味があったようですが、そこから手ごろな値段で、パンケーキ、オムレツ、ベーコン、ポテトの朝食メニューや、ハンバーガーやホットドッグやサンドイッチなどの昼食メニューなどをお腹いっぱい食べられるような身近な食堂として独自の発展を遂げてきました。アメリカで生まれ育ってきた人々であれば誰にとっても馴染みのある場所であり、それを日本の感覚でいうと、地元の行きつけの食堂または定食屋という感じなのかなと思います。

 

私にとっては、ダイナーは、80年代のたくさんのアメリカ映画の中のシーンに出てくる、イメージであり、ドラマが生まれるような魅力的な場所のようにも思えます。こうしたダイナーは、いわゆるレストランやカフェ、またファースト・フード店とも異なり、独特の食堂として存在していたし、アメリカ文化を考えるうえでも象徴的なものの一つといえるのではないかと思います。

 


Top left: Bert's 50's Diner in rural Mechanicsville, Maryland. 8/6/2017. Control No. 2018697895. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2018697895/

Top right: Bert's 50's Diner in rural Mechanicsville, Maryland. 8/6/2017. Control No. 2018697896. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2018697896/

Bottom: Bert's 50's Diner in rural Mechanicsville, Maryland. 8/6/2017. Control No. 2018697897. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2018697897/

 

上の3枚は、メリーランド州の南部のセント・マリー郡のメカニクスビル市にあった、「バートの50代のダイナー(Bert’s 50’s Diner)というダイナーの写真です。このダイナー自体が始まったのは1980年代半ばでしたが、店内は1950年代の雰囲気を出したもので、地元ではとても人気があったようですが、残念ながら2022年に閉店してしまいました。

 

米国議会図書館や米国国立公文書館には、そうしたダイナーの写真がありますが、その多くはすでに無くなってしまったものが多いのですが、中には現在も頑張って営業をしているダイナーもあります。

 


Top left: Modern Diner, diagonal front detail, Dexter Avenue, Pawtucket, Rhode Island. 1978. Control No. 2017702224. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2017702224/

Top right: The Modern Diner in Pawtucket, Rhode Island is one of two known surviving Sterling Streamliner locomotive-style diners still in operation as of 2018 (the other is in Salem, Massachusetts). 07/25/2018. Control No. 2018700651. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2018700651/

Bottom: Modern diner, Pawtucket, Rhode Island. 1980-2006. Control No. 2011630228. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2011630228/

 

上の3枚の写真は、ロードアイランド州のポータケット市にある、モダン・ダイナー(Moden Diner)というダイナーの写真です。このモダン・ダイナーは、1941年から、現在でも、営業をしており、地元の人々に愛されている、歴史的にも貴重なダイナーと言われています。

 

このモダン・ダイナー(Modern Diner)のサイト:https://moderndinerri.com/(注)  によれば、その地域でのダイナーの始まりは、ウォルター・スコット(Walter Scott)という人物が、1872年に馬車でパイ、コーヒー、軽食を、夜仕事をする人々に売ったのが始まりと書かれていました。

(注:2024/8/14現在、このサイトにはアクセスできないようです。FaceBookURLはこちら https://www.facebook.com/modern.diner/

 

そうした話を聞くと、19世紀半ばのアメリカの開拓時代のカワポーイ達のために使われた、チャックワゴン(Chuck Wagon)という、炊事用の幌馬車を思い出します。当時の「チャック(Chuck)」とは食べ物を意味するスラングでした。もともとは南北戦争中の軍用の幌馬車を改良したものと言われているようですが、こうしたチャックワゴンも、のちのダイナーの発展に貢献したものであったのではないかと思います。

 


Left: Two-Bar chuck wagon camped at Dry Fork of Elkhead Creek, Spring of 1907. Photo by J.H. Sizer. Record Group 95 Records of the Forest Service 1870 – 2022, Series: Historical Files, 1900 – 1965, Historical Data - Routt National Forest. No. NRG-95-HISTFILES-8NN0473-14(3). NAID: 293489. National Archives in College Park, MD. https://catalog.archives.gov/id/293489

Right: A chuck wagon is one of the exhibits at the Hubbard Museum of the American West on the Billy the Kid Scenic Byway. ca. 1995–ca. 2013. Record Group 406 Records of the Federal Highway Administration 1956 – 2008, Series

Digital Photographs Relating to America's Byways ca. 1995 – ca. 2013. No. 406-NSB-011-slide_469.jpg. NAID: 7717391. National Archives in College Park, MD. https://catalog.archives.gov/id/7717391

 


Left: Cowboys at lunch. Photographs show a group of cowboys from the JA Ranch in the panhandle of Texas seated on the ground eating next to chuckwagon. In the background is a remuda and the photographer's wagon of W. D. Harper. c1904.

Control No. 2007678642. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2007678642/

Right: Lunch wagon for bean pickers. Belle Glade, Florida. 1937 Jan. Control No. 2017761370. 

Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/item/2017761370/

 

上の4枚の写真のうち上段の2枚は、チャックワゴンの写真です。また下段の左は、そのチャックワゴンと昼食をとるカワボーイ達の様子であり、右は、豆の収穫に従事する人々のためのチャックワゴンですでに1937年なので馬ではなく、トラックで運んでいたことがわかります。

 


Left:American Field Kitchen. New type of motor field kitchen under consideration of the War Department, for use in France. The kitchen provides for the feeding of 250 men at one mess and carries a reserve supply of food for that number of men. 1917–1918.  Record Group 165 Records of the War Department General and Special Staffs 1860 – 1952, Series: American Unofficial Collection of World War I Photographs 1917 – 1918, Military Administration - In Service of the Interior - Supply Service - Rations and Rolling Kitchens. No. 165-WW-278B-34. NAID: 45501300. National Archives in College Park, MD. https://catalog.archives.gov/id/45501300

Right: An American Red Cross Club mobile "Donut Wagon" Supply Men Of The 353Rd Fighter Group With Hot Coffee And Doughnuts Somewhere In England, 2 July 1945.No. 342-FH-3A14529-68901AC. Record Group 342 Records of U.S. Air Force Commands, Activities, and Organizations 1900 – 2003. Series Photographs of Activities, Facilities and Personnel

ca. 1940 – ca. 1983. NAID: 204885217. National Archives in College Park, MD. https://catalog.archives.gov/id/204885217

 

左上の写真は、第1次世界大戦中のものですが、チャックワゴンということばではなくてフィールド・キッチン(Field Kitchen:野外台所)という言葉が使われていますが、食事を提供するという役割は同じで幌馬車に変わってトラックであるということです。また右上の写真は、第2次世界大戦中のもので、兵士達にコーヒーとドーナッツを提供するバスですが、ドーナッツ・ワゴン(Donut Wagon)と呼ばれているのもとても面白いと思いました。

 

ダイナーという言葉には列車の中の食堂車という意味もあります。以下の写真は、その食堂車の写真の一部です。左下の食堂車は、北海道や青森にあった米軍病院から東京の米軍病院であたらめて治療を受けなければならない兵士達が乗った列車の食堂車の様子で、右下は、朝鮮戦争中の国連報道列車の中の台所で七面鳥をシェフが焼き具合をチェックしている様子です。

 


Left: Patients traveling on the new Hospital train “Coronet Comfort” enroute to the 27th General Hospital in Tokyo enjoy a delicious medium-rare steak for dinner in the dining car of the rain. Shown Pvt. Deral Adams of Glendale, Calif. (left rear); Sgt. Tony Arata of Brooklyn, N. Y. (left front), S/Sgt John L. Dobbins of Aurora, Ill.(right rear) and Pfc Delbert M. Lumaden of Alpen, Mich. (right front). These patients in need of more advanced Medical treatment are gathered from the 78th Field Hospital and E30th evacuation Hospital in Hokkaido and the 167th Evacuation Hospital in Aomori and are brought to the 27th General Hospital in Tokyo. The train is operated by 27th General Hospital personnel. 1/9/1946. No. 228525. Box 350. RG111SC, Records of Signal Corps WWII and After photograph, National Archives in College Park, MD.  

Right: Press Train Kitchen. In the kitchen of the United Nations Press train at Munsan in Korea, a Korean cook inspects the roasted turkey. 10/10/1051. No. 382218. Box 812. RG111SC, Records of Signal Corps WWII and After photograph, National Archives in College Park, MD.  

 

私達が住んでいるメリーランド州内にもいくつかダイナーがありますが、その中でもテイスティー・ダイナー(Tastee Diner)は、もともとシルバー・スプリング市内で、1935年に始まり、全米の中でも古いダイナーの一つとして知られています。 残念ながら、シルバー・スプリング市内のダイナーは昨年閉店してしまいましたが、ベゼスダ市とローレル市のそれぞれのテイスティー・ダイナーは、今も営業を続けています。特にベゼスダ市にあるダイナーは1939年から続いているので、とても歴史が長いです。今では、この店の周囲には、高層ビルが立ち並び、周囲の景観はすっかり変わってしまいましたが、それでも、このテイスティー・ダイナーの店内は、時が止まったように昔のままで、懐かしい雰囲気がそのまま残されています。

 

店のドアを開けると目の前にカウンターがあり、座席があるスペースは左右に伸びていて、いかにも列車の中の食堂のような雰囲気です。窓際のテーブルには、昔の音楽が聴けるような、ミニ・ジュークボックスがおいてあり、一人でも、家族連れでも、誰でも気軽に入って食事を楽しむことができます。先日久しぶりにこのテイスティー・ダイナーに行ってきました。

以下はその時の写真です。(以下は8/3/2024撮影。)

 






気取りのない店内ですが、人を温かく迎える雰囲気があり、とても居心地がよいです。

夫は野菜入りのオムレツ、トースト、ベーコンを、私は、ヒラメやアサリやエビとカキのフライセットに塩ゆでのインゲンと塩漬けの赤カブをサイドにつけてとてもおいしく頂きました。

 

現在では、昔ながらのダイナーのコンセプトをもとにしながら、もっとメニューを増やし、おしゃれな雰囲気をもった現代的ダイナーもチェーン店として各地に出てきており、それはそれで楽しめると思います。しかしながら、テイスティー・ダイナーのように、長年地元の人々に愛されてきて、昔ながらの雰囲気を大事にして、素朴ながらも、味があるダイナーの存在はとても、貴重であり、アメリカのカルチャー史からみても、すごい存在だと私は思います。なので、これからも頑張って続けてほしいと思います。もし、ワシントンDCやメリーランド州にお越しの際は、このダイナーも是非訪れていただきたいと思います。(YNM)