米国には、”スプリング・フォワード、フォール・バック“(Spring forward, Fall back.:春に時間を進めて、秋に時間を戻す)という言葉で表されるように、 季節によって、スタンダード・タイム(Standard time: 冬時間)とデイライト・セイビング・タイム(Daylight Saving Time: DST:夏時間)という2つの時間帯を使い分けます。デイライト・セイビング・タイム(夏時間)は、毎年3月第2日曜日の午前2時に時計の針を1時間進めて午前3時とします。その時から、11月第1日曜日の午前2時前まで続き、その日の午前2時には時計の針を1時間戻して午前1時にします。
現代のコンピュータ、スマートフォン、テレビなどは自動的に、この時間帯に適応しますが、デジタルではない時計や機器においては、手動であらためて設定を変えなければなりません。
世界を見ると、この夏時間と冬時間のシステムを使っているのは、米国だけではなく、カナダ、イギリス他の北米地域やヨーロッパ諸国他を含む70か国以上になります。(参照:Daylight Saving Time Statistics from Time and Date:https://www.timeanddate.com/time/dst/statistics.html)
もともとは、に日照時間が冬と夏とでは異なるため、日照時間が長い間はできるだけ人間の活動をできるようにし、エネルギーを節約するという目的がありました。現代では、仕事のあとにも買い物やレストランに出かけるなどのいろいろな消費活動を促進することにもなり、結果として、経済効果を上げることになるといったことになっているかと思います。
今回は、このデイライト・セイビング・タイム(夏時間)にちなんだ資料をご紹介したいと思います。
Personnel - P200 through P399 [165-WW-420P-334]. Marcus M. Marks, President of National Daylight Saving Association telephoning to the Metropolitan Tower to move the hands of the clock one hour ahead. 3/31/1918. New York, 165-WW-420P-334, Box 420. File Unit: Personnel - P200 through P399, 1917 - 1918, Series: American Unofficial Collection of World War I Photographs, 1917 - 1918, Record Group 165: Records of the War Department General and Special Staffs, 1860 - 1952. National Archives at College Park, MD. ARC Identifier: 45530926. https://catalog.archives.gov/id/45530926
上記の写真は、1918年の3月にデイライト・セイビング・タイム(夏時間)が使われることになったときの写真です。一番最初の場所は1908年にカナダのオンタリオ州のサンダー・ベイという5大湖のスペリオル湖にある町でした。そのあとカナダの他の地域で使われるようになりました。国家として、このデイライト・セイビング・タイム(夏時間)を最初に採用したのは、1916年、ドイツでした。第1次世界大戦下、戦争遂行のための燃料を節約するためであったと言われています。第1次世界大戦は、イギリス、フランス、ロシアを中心とした協商国(連合国)と、ドイツ、オーストリア=ハンガリーを中心とした同盟国との間で、1914年7月から1918年11月まで続いた最初の世界戦争であり、その戦争遂行への努力の一つが、デイライト・セイビング・タイム(夏時間)の採用でもありました。ドイツに対抗するイギリスでも使われるようになり、ほかのヨーロッパ諸国にも広まり、そうした流れの中で米国も採用をしていきました。(参照:History of Daylight Saving Time (DST):https://www.timeanddate.com/time/dst/history.html)
Left: Victory! Congress passes daylight saving bill. Poster showing Uncle Sam turning a clock to Daylight Savings time as a clock-headed figure throws his hat in the air. The clock face of the figure reads "One hour of extra daylight." [1918] Library of Congress Control Number: 2002722591. https://www.loc.gov/item/2002722591/
Right: "Saving Daylight! "Set the clock ahead one hour and win the war!" uncle sam, your enemies have been up and are at work on the extra hour of daylight- When will you wake up?" ca. 1917 - ca. 1919. 4-P-251. Series: World War I Posters, 1917 - 1919, Record Group 4: Records of the U.S. Food Administration, 1917 - 1920. National Archives at College Park, MD. ARC Identifier: 512689. https://catalog.archives.gov/id/512689
"Saving daylight!" Sign and mail one of these post cards to your congressman at Washington and help make it a national law to set the clock one hour ahead. Poster showing a man writing a postcard, with the U.S. Capitol in the background. To the left are samples of the free postcards that were distributed. [1918] Library of Congress Prints and Photographs Division Washington, D.C. Library of Congress Control Number: 00652855. https://www.loc.gov/item/00652855/
上記のポスターやポストカードは、デイライト・セイビング・タイム(夏時間)の重要性を訴えるものです。第1次世界大戦には、当初、米国は関わりを持ちませんでしたが、1917年4月に協商国(連合国)側に加わりました。デイライト・セイビング・タイム(夏時間)は、当時においては、まさに戦争時間と言っても過言ではないほど、重要な意味をもっていたのだと思います。
Left: Untitled. Uncle Sam and cartoonist Clifford Berryman's teddy bear get ready to move their clocks forward by one hour, demonstrating the new "daylight savings time" to the general public. 3/30/1918. U-095. Series: Berryman Political Cartoon Collection, 1896 - 1949, Record Group 46: Records of the U.S. Senate, 1789 - 2022. National Archives at Washington, DC. ARC Identifier: 6011373. https://catalog.archives.gov/id/6011373
Right: Opposition to Daylight Savings. Washington had initiated its first experiment with daylight saving time. While only in place for a month, there was increasing opposition. A vote taken by the Evening Star newspaper showed a more than 2-1 opposition. Cartoonist Clifford Berryman shows Uncle Sam and teddy bear watching intently as ballots continued to pile up against the new daylight saving system. On Uncle Sam's desk is a note from Congress indicating that they can't endorse daylight saving time for Washington. 5/25/1922. U-027. Series: Berryman Political Cartoon Collection, 1896 - 1949, Record Group 46: Records of the U.S. Senate, 1789 - 2022. National Archives at Washington, DC. ARC: 6011733. https://catalog.archives.gov/id/6011733
上記の2点の漫画は、米国の漫画家であったクリフォード・ケネデイ・ベリーマン(Clifford Kennedy Berryman: 1869-1949)のものです。米国では、1918年にデイライト・セイビング・タイム(夏時間)は採用されたものの、反対の声が多く、第一次大戦後は、各州や地域にその採用の選択は委ねられました。その後第2次世界大戦から再びこのデイライト・セイビング・タイム(夏時間)が重要視され、戦後になっても、現在まで続いてきました。
日本においては、こうしたデイライト・セイビング・タイム(夏時間)というものはありません。しかしながら、戦後の占領期においては、占領軍の指示により、この制度が導入されていた時期がありました。日本の電力不足に対応するために、1948年から開始されました。1950年には朝鮮戦争が勃発し、日本の経済は朝鮮特需となり、朝早くから仕事をしても夕方になっても終わらないことになり、このデイライト・セイビング・タイム(夏時間)は、労働強化につながることになり、1952年には廃止されました。当時の日本の新聞によると、この制度導入当初は、好意的に人々に受け入れられていたようです。
Left: Electric Power Utilization and Daylight Saving. 3/19/1948. Series: Topical Files, 8/22/1949 - 4/28/1952
Record Group 331: Records of Allied Operational and Occupation Headquarters, World War II, 1907 - 1966, Entry UD1753, Box 7121, File 21. National Archives at College Park, MD.
Right: Mainichi Shinbun, 6/1/1948. Series: General Subject File, 1946 - 1951
Record Group 331: Records of Allied Operational and Occupation Headquarters, World War II, 1907 - 1966, Entry UD1700, Box 5891. File 18. National Archives at College Park, MD.
今年に入って、米国では、サンシャイン・プロテクション・アクト(Sunshine Protection Act:日照保護法)と呼ばれる、今後はこれまでのデイライト・セイビング・タイム(夏時間)をスタンダードとして、それを恒久的に維持する法案が、今年の3月に上院(Senate)で可決されました。それがもし、下院(House)でも可決されれば、大統領の署名を待って、少なくとも2023年から正式に施行されることになります。しかしながら、最近では、デイライト・セイビング・タイム(夏時間)のシステムは、健康に良くないといったこともしばしば言われるようになりました。例えば、ノースウェスタン大学の医学部の研究では、スタンダード・タイム(冬時間)から、デイライト・セイビング・タイム(夏時間)に移行したあと、生活のリズムが崩れたり、睡眠不足などから、心臓病を患うが、心臓発作に見舞われるリスクが24%高くなり、致命的な車の事故のリスクも6%増え、また脳卒中のリスクも8%増えるとしています。(参照:Daylight Saving Time and Your Health:https://www.nm.org/healthbeat/healthy-tips/daylight-savings-time-your-health#:~:text=During%20the%20week%20after%20the,rate%2C%20which%20increases%20by%208%25 )また、アラバマ大学のバーミングハム校の教授は、心臓病のリスクを挙げてイラストで説明をしています。(参照:https://www.uab.edu/news/health/item/7090-spring-daylight-saving-time-may-cause-an-increased-risk-of-heart-attacks)
デイライト・セイビング・タイム(夏時間)を恒久化することにおいては、睡眠や医学の専門家はもちろん、一般の人々からも反対の声が上がっています。(参照:Why Permanent Daylight-Saving Time Is Bad for Your Health, Sleep Scientists Say:https://www.wsj.com/articles/why-permanent-daylight-saving-time-is-bad-for-your-health-sleep-scientists-say-11648002326)
何故スタンダード・タイム(Standard time: 冬時間)を廃止して、これまでのデイライト・セイビング・タイム(夏時間)を恒久化とするのか私にはよく理由がわかりませんが、その目的は、経済的効果を最大限追求するからなのだと思います。なのでやはり人間の体に負担のないような、これまでのスタンダード・タイム(Standard time: 冬時間)を恒久化してほしいと私は思っています。(YNM)