私は昔、米国の特許やトレードマークの申請を扱う弁護士事務所で働いていたことがありました。特許の申請から特許を得るまでに米国では20か月から25か月くらいかかります。申請対象となる製品やトレードマークには、実に多様なものがありました。毎日、米国内はもちろん、日本や韓国他の国々からのたくさんの申請書類があり、それぞれの分野の専門家でもある弁護士達を事務的業務をサポートするというリーガルアシスタントの仕事は、毎日、昼食時間をまともに取れないほどのすさまじく忙しいものでしたが、特許やトレードマークに関していろいろなことを学ぶことができたと思っています。
さて、米国国立公文書館の資料の中には、特許及びトレードマーク関係の資料群(RG241:Records of the Patent and Trademark Office, 1836 – 1978)があります。これらの中には、とても楽しい資料がありますので、今回はそれらをいくつかご紹介したいと思います。
下記は、1920年4月にイリノイ州のシカゴ市にあったキャンデイ会社による特許の申請を行ったときの資料の1部です。この会社のキャンデイのラベルは、おとぎ話に出てくるキャラクターがパレードをしている素敵なデザインになっていると思います。このキャンデイ会社の申請書が、1920年4月15日に米国特許オフィスによって受理されてから、4か月後の8月16日には、すでに承認されたことがわかります。
Both: 22046-Candy Craft Candies for Kiddies- The Candy Craft Shops Inc. 4/15/1920 - 8/31/1920. Series: Case Files for Registered Product Labels, 1874 - 1940, Record Group 241: Records of the Patent and Trademark Office, 1836 - 1978. National Archives in College Park, MD. ARC Identifier:76048643. https://catalog.archives.gov/id/76048643
こんな資料もありました。下記は、1901年1月のミズーリ州のセントルイスにあった飲み物製造会社の特許の申請関係資料の一部です。ジンセン(ginseng)というアルコール飲料のラベルが、アルコール飲料であるという叙述をしていないという理由で、その申請が2回拒否されましたが、ラベルにリキュールという文字を入れることで、同年5月19日にはようやく承認を得たことがわかります。
英語のジンセン(ginseng)は、日本語では、朝鮮人参と訳されるかと思いますが、ジンセンは、実際には11種類にわたるものがあり、大きく分けると、朝鮮半島や中国由来のものと、アメリカ国内のものがあるようです。現代では、滋養強壮を促進したり、炎症を低下させたり、血糖値を低下させたりするなど、健康の維持には、重要な植物として位置づけられているかと思います。(参照:What are the health benefits of ginseng?:https://www.medicalnewstoday.com/articles/262982)
しかしながら、下記のアルコール飲料のラベルは、おそらくそうしたものとは関係なく、当時の米国では、アジア地域はまだとてもエキゾチックなイメージがあり、それを使ったのではないかと思います。このラベルは、まん中に着物を来た日本人女性らしき人物が扇を持って立っており、周りの4つの絵は、おそらく酒造りに関したものなのではなかったのかとも思います。今から100年以上前のものなので、当時のアジア観が垣間見れるような気がしてとても興味深いと思いました。
Both: 8471 - Ginseng, For a Beverage - Daniel J. Kennedy.
1/14/1901 - 6/18/1901. Series: Case Files for Registered Product Labels, 1874 - 1940, Record Group 241: Records of the Patent and Trademark Office, 1836 - 1978. National Archives in College Park, MD. ARC Identifier: 74227571: https://catalog.archives.gov/id/74227571
下記は オレゴン州のポートランド市の会社によるハイハイ・チューインガムというガムの申請書類の1部です。100年以上前のものですが、「たばこの唯一の代替用品」、「喫煙習慣を止める確実な方法」、「喫煙習慣を打ち負かす」といった文言が書かれています。当時は、喫煙も当たり前のような時代であり、社会的にも、現代のような健康志向というものはなかったはずですが、あえて、こうした言葉を宣伝にしてチューインガムを売ろうとしたところが とても面白いと思いました。
Both: 8667 - Hi-Hi Chewing Gum - Robert Arthur Wilson.
8/15/1901 - 9/10/1901. Series: Case Files for Registered Product Labels, 1874 - 1940, Record Group 241: Records of the Patent and Trademark Office, 1836 - 1978. National Archives in College Park, MD. ARC Identifier: 74617706: https://catalog.archives.gov/id/74617706
これらの特許関係資料の中で、現在も存続している会社のものはないかと探したところ、それらの一つに下記の会社がありました。もともとは ミズーリ州のセントジョゼフ市にあったパール・ミリング・カンパニーという会社が、1889年にパンケーキミックス(その粉に水を混ぜてあとは焼くだけという簡単なパンケーキのもと)や普通のケーキミックスやシロップなどを、「アント・ジェマイマ」(ジェマイマおばさん)というブランドで売り出したのが始まりでした。その後、その会社の所有者は、何度か変わりましたが、、「アント・ジェマイマ」というブランド名は 変わることなく、また、パンケーキミックスと言えば、どの家庭でもかならず置いてあると言ってもよいほど、広く長く普及してきました。しかしながら、近年の人種問題に関する議論を背景に、132年間続いていたブランド名である、「アント・ジェマイマ」という名称は2021年7月に、廃止され、新たなブランド名として、「パール・ミリング・カンパニー」になりました。もちろん、味は変わることなく、今後も、多くの人々に愛されていくと思います。(参照:https://www.pearlmillingcompany.com/our-history )
Left:22527 - Aunt Jemima Company Cake - Aunt Jemima Mills Company. 9/22/1920 - 2/8/1921.Series: Case Files for Registered Product Labels, 1874 - 1940, Record Group 241: Records of the Patent and Trademark Office, 1836 - 1978. National Archives in College Park, MD. ARC Identifier: 84565104: https://catalog.archives.gov/id/84565104
Right: I bought this at glossary store and took a photo at home on Feb 17, 2022.
米国国立公文書館にある特許関係資料はまだまだたくさんあり、今回はそれらの一部をご紹介しました。それぞれの会社が、一生懸命ラベルのデザインを考えて多くの人に買ってもらいたいという意図がよくわかるものもあり、また、それらを通じてアメリカ史を垣間見ることができるので、こうした資料もとても貴重なのではないかと思っています。(YMN)