テディベアと漫画家のクリフォード・ベリーマン

おもちゃとしてのぬいぐるみは自分の子どものころの記憶の中にあります。米国で、娘が生まれたときにも自宅にもたくさんのぬいぐるみを家族や友人からもらい、また自分でもよく買っていたかと思います。米国にもいろいろなぬいぐるみがありますが、やはり人気があるのは熊のテディベアです。

 

下記の写真の上は、ニューヨーク州のオイスターベイ市のサガモア・ヒルに今もある、米国の第26代のセオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt) 大統領の邸宅内のテディベアの写真です。下は、私の自宅にあるものの写真です。今回は、こうしたテディベアに関係する資料について、ご紹介したいと思います。

 

Teddy bear collection on site at Sagamore Hill; home of President Theodore Roosevelt.

New York: 022-DP-10960.JPG: Series: Photographs from the National Digital Library, ca. 1998-2011: RG22: Records of the U.S. Fish and Wildlife Service, 1868-2008. National Archives, College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/166711650

 

 

 

Teddy bears at my house on 4/10/2020

 


 

米国第26代大統領であったセオドア・ルーズベルトは、1902年11月に、当時ミシシッピ州とルイジアナ州との州堺の問題を解決するためにミシシッピ州へ出向きました。そこで自分の趣味であった狩猟も行いましたが、熊を仕留めることができず、見かねたガイドが、自分で生け捕りにした熊をを鎖に繋いでセオドア・ルーズベルト大統領に撃たせようとしました。が、彼はそれを拒否しました。その話を当時のワシントンDCの新聞のワシントンポストで風刺画担当のクリフォード・ベリーマン(Clifford Berryman) が、漫画にしました。

 

その漫画は、米国国立議会図書館に所蔵されており、ウェッブサイトで以下のように見ることができます。

 

Drawing the line in Mississippi: 11/16/1902 by Berryman, Clifford Kennedy, 1869-1949, artist: Summary: Photograph reproduces a newspaper cartoon in the Washington Post. The cartoon is a detail from a series called "The Passing Show" about President Theodore Roosevelt's purported refusal to shoot a chained bear while on a hunting trip in Mississippi. The little bear, Bruin, became so popular that Berryman used him frequently in later cartoons on many different topics. Although Berryman helped popularize the association of Teddy Roosevelt with bears, he did not invent the toy teddy bear. (Source: Teddy Bear Men: Theodore Roosevelt and Clifford Berryman, by Linda Mullins, 1987, p. 32-3.): Library of Congress: https://www.loc.gov/item/2008678324/

 

この漫画を見て、ニューヨーク市内で菓子屋を営んでいた、モリス・ミットム(Morris Michtom)が彼の妻とともに、熊のぬいぐるみを作ってセオドア・ルーズベルト大統領の愛称であるテディにちなんでテディベアとして売り始めました。また、それ以前からすでにぬいぐるみを作っていたドイツのシュタイフ社(Steiff)もテディベアを作ることになり、さらにテディベアは人気を博していきました。(参考:テディベアの歴史:一般財団法人日本玩具文化財団:http://toyculture.org/%E3%81%8A%E3%82%82%E3%81%A1%E3%82%83%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/%E3%83%86%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%99%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2/

 

ワシントンDCの新聞であるワシントンポストの漫画家であったクリフォード・ベリーマン(Clifford Berryman)は、1869年にケンタッキー州で生まれました。すでに17歳でワシントンDCの米国の特許事務所で製図者となり、その2年後の1891年にはワシントンポストの漫画家の代わりに漫画を描くようになり、さらに5年後には、その新聞社のトップの政治風刺画担当者になるという活躍ぶりでした。そ1896年から亡くなる1949年までの50年間、彼の漫画はワシントンポストや、ワシントンイブニングスターにほとんど毎日のように掲載されました。(参照:Candidates, Campaigns, and the Cartoons of Clifford Berryman:US Senate: https://www.senate.gov/artandhistory/art/Art_Spotlights/Berryman_Cartoons.htm

 

下記の漫画は、クリフォード・ベリーマンの自画像です。彼が、セオドア・ルーズベルト大統領の狩猟時に鎖で繋がれた熊の射殺を拒否した話を漫画にしてから、テディベアはアメリカ合衆国の象徴的なものになりました。クリフォード ベリーマンは自分の漫画の中でその熊をかわいい、抱きしめたいようなテディベアに変えることにして、それが彼の漫画の中でのシンボルとなりました。

 

Self-Portrait of Clifford Berryman: Clifford Berryman is credited with introducing the teddy bear into the American vernacular after President Theodore Roosevelt famously refused to shoot an old, haggard bear during a hunting trip. Berryman changed the old bear into a cute, cuddly "teddy bear" -- named for the President -- and it became a common symbol in Berryman's cartoon. This cartoon shows a self-portrait of Berryman drawing his famous teddy bear. 1904: Series: Berryman Political Cartoon Collection, 1896-1949: Record Group 46: Records of the US Senate, 1789-2015: National Archives in College Park, MD. 2979338: https://catalog.archives.gov/id/2979338

 

米国国立公文書館には、上記のクリフォード・ベリーマンの自画像を含め合計2359枚の漫画が保管されています。それらのすべてを、オンラインで見ることができます。 それらの漫画の中には、テディベアそのものが宣伝として、中心となるようなものも1部ありますが、ほどんどは、漫画の中で、テディベアは脇役としてさりげなく、描かれています。それらの中からいくつかをご紹介したいと思います。

 

To the woods! 11/1/1906: This cartoon features President Theodore Roosevelt and the Teddy Bear character.: Series: Berryman Political Cartoon Collection, 1896-1949: Record Group 46: Records of the US Senate, 1789-2015: National Archives in College Park, MD: ARC No. 306110: https://catalog.archives.gov/id/306110

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Untitled 4/15/1905: This untitled illustration by cartoonist Clifford Berryman, which appeared in the Washington Post on April 15, 1905, Berryman uses his famous teddy bear as advertising the Washington Post as "Washington's Favorite Newspaper.": Series: Berryman Political Cartoon Collection, 1896-1949: Record Group 46: Records of the US Senate, 1789-2015: National Archives in College Park, MD: ARC No. 6010566: https://catalog.archives.gov/id/6010566

 

 


上記の上の漫画については、米国国立公文書館のサイト上には、特にキャプションは掲載されていませんが、ホワイトハウスを後にして、パインノット(Pine Knot)へ向かう様子が、描かれています。これは、当時のセオドア・ルーズベルト大統領が、就任時代の休みに、時々バージニア州のシャーロッツ市にあったパインノット(Pine Knot)という山小屋に行っていたことを示すものだと思います。本来は休みのはずですが、彼は手にインクと紙を持っているので、おそらくその山小屋に仕事を持ち込まければならなかったほど忙しかったのではないかと思われます。ホワイトハウスにはすでにいろいろな懸案事項が山積して、テディベアがそれを不安げな顔で見守りながら、大統領の後をついていく姿が印象的です。

 

上記の下の写真は、当時のワシントンポスト日曜版の宣伝のために使われたテディベアの漫画です。

 

Two Bees or Not Two Bees--That is the Question! : This cartoon depicts President Theodore Roosevelt questioning whether to run for a third term of office. Roosevelt was elected Vice President in 1900. Six months into his term, President William McKinley was assassinated, and Roosevelt ascended to the Presidency. After winning the 1904 election, Roosevelt announced that he would honor the Presidential two-term tradition by retiring in 1909. He proved immensely popular, however, and supporters urged him to run for an unprecedented third term. In this cartoon, Roosevelt, dressed as Hamlet, stages an alternative rendition of the famous Shakespearian soliloquy. With the first- and second-term Presidential bees behind him, Roosevelt looks to the third-term bee and wonders, "Two bees or not two bees--that is the question!" Roosevelt ultimately decided not to run in 1908 and instead left the United States to embark on an extended African safari.: Series: Berryman Political Cartoon Collection, 1896-1949: Record Group 46: Records of the US Senate, 1789-2015: National Archives in College Park, MD: ARC No. 1693337: https://catalog.archives.gov/id/1693337

 

To Go or Not to Go?:Drawn just two days before the end of President Theodore Roosevelt's second term in office and on the eve of his African safari, this cartoon alludes to an artistic quandary: since Roosevelt was the inspiration for the teddy bear, should the cartoonist discontinue use of the symbol once he left office? To the delight of "Washington Evening Star" readers, the cartoonist continued throughout his career to use the beloved teddy bear. : Series: Berryman Political Cartoon Collection, 1896-1949: Record Group 46: Records of the US Senate, 1789-2015: National Archives in College Park, MD. 306086: https://catalog.archives.gov/id/306086

 

 


 

また、上記の上の写真は、セオドア・ルーズベルト大統領が、すでに2期にわたる大統領就任を果たし、其のあとは退任するつもりでいましたが、彼の支持者は第3期も継続を望んでおり(現在では米国大統領は再選されても第2期までしかできませんが)、本人もそうしたことを考えていたところもあったようです。その葛藤を、シェークスピアの有名な『ハムレット』の作品の中で、「生きるか、死ぬか、それが問題だ。」(”Tobe or not to be, that is a question.”)のセリフをもとに、クリフォード・ベリーマンが漫画にしたものです。テディベアも3匹目の蜂を叩くべきか(大統領が3選に臨むべきか)どうかを気にしています。

 

上記の下の漫画は、1901年9月から1909年3月まで2期にわたって大統領に就任していたセオドア・ルーズベルト大統領が、その大統領の地位を去る2日前に描かれたものです。彼はすでに、自分の退任後には、中央アフリカへのサファリを予定していました。テディベアはもともとセオドアルーズベルト大統領との関わりがありましたが、その大統領が去るのであれば、漫画の中のテディベアもさることになるのかといった事をテーマとしている漫画です。しかしながら、クリフォード・ベリーマンはその後もこのテディベアを彼の漫画の中で書き続けました。

 

米国国立公文書館のサイトには、クリフォード・ベリーマンと彼の息子でやはり漫画家となったジム・ベリーマンによる、第2次世界大戦とその影響、戦後の冷戦や軍拡競争、また学校における人種差別の禁止などをテーマにした漫画、また米国の20世紀初頭から第2次世界大戦勃発時までの歴史に関する漫画、さらに米国議会に関する漫画がそれぞれオンラインで読むことができる本として、以下のように紹介されています。

 

A Visual History, 1940-1963: Political Cartoons by Clifford Berryman and Jim Berryman: https://www.archives.gov/files/legislative/resources/ebooks/a-visual-history-1940-1963.pdf

America and the World: Foreign Affairs in Political Cartoons, 1898-1940: https://www.archives.gov/files/legislative/resources/education/america-and-the-world/ebook.pdf

Representing Congress: Clifford K. Berryman's Political Cartoons: https://www.archives.gov/files/legislative/resources/education/congress-represented/ebook.pdf

 

今回は、漫画家のクリフォード・ベリーマンとテディベアとの関わりからいくつか資料を紹介いたしました。彼の漫画は当時の米国の政治的かつ社会的な状況や国際的な状況を風刺を込めながら非常にうまく描いているので、現代においても、彼の漫画は人気があります。また、彼の漫画から米国の歴史を学ぶというところで教材の一部としても使われていますので、私もそれらからも米国の歴史について学んでいきたいと思っています。(YN)