メリーランド州にある「米国国立暗号博物館」についてご紹介いたします。この博物館は、米国国立公文書館から車で30分程行ったところに位置する米国国家安全保障局本部NSA(National Security Agency Headquarters)と隣接しています。当初は、この組織が使ってきたものを歴史的遺物として収集し、内部の職員がこの組織の活動の過去の成功と失敗を振り返る場所とすることを目的とした施設でした。その後、1993年12月に米国国家安全保障局が運営する「国立暗号博物館」として一般公開されました。ワシントンDC周辺にある国立博物館の建物としては規模が小さく静かな佇まいですが、館内の展示物とその内容には驚かされると同時に、アメリカ史、世界史を通して暗号の歴史を垣間見ることができ、その秘密めいた世界への興味を一気に掻き立てられます。
(参照: https://www.nsa.gov/about/cryptologic-heritage/museum/ )
写真右上は米国国立暗号博物館のロゴで、暗号学財団と同じシンボルが使われており、赤い短点(ドット)と長点(ダッシュ)のモールス符号で模った部分はCRIPTOLOGIC(暗号)と読み解くことができます。
(参照: https://cryptologicfoundation.org/about/logo.html )
英国政府通信本部の設立百周年を記念した特別展示パネル
タイペックス暗号機(TYPEX)
写真上は、今年の8月から“暗号の遺産コーナー”に設けられた英国の政府通信本部GCHQ(Government Communications Headquarters)の創設100周年を記念したものです。GCHQは英国の諜報機関で1919年ブレッチリ―パーク(Bletchley Park)に政府暗号学校として創設され、1946年に現在の政府通信本部に改編されました。1940年ドイツ軍潜水艦のエニグマ暗号通信を解読したことで知られています。アメリカ国家安全保障局の提携機関とされています。
エニグマの展示ブース
実際に操作ができるエニグマ
エニグマの展示ブースは暗号博物館で最も人気がある展示の一つで、世界中から多くの人々がここに展示されているエニグマを見に訪れるとのことです。見るだけでなく実際にメッセージを暗号化したり解読したりする操作を体験できるようにエニグマの実機が提供されているのも魅力の一つです。
ドイツ軍の暗号機TUNNY
ドイツ軍の暗号機 STURGEON
解読された外交暗号によって得られた情報はマジックと呼ばれ、アメリカの戦略に大きな影響を与え、米国の暗号学の最大の成果の一つとなりました。当時の日本の機械式暗号に対しては、レッド、オレンジ、グリーン、パープル、コーラル(サンゴ色)、ジェイド(ヒスイ色)といった色の名前でコードネームをつけました。下記の写真は日本の暗号機 の中の九一式欧文印字機(外務省用の暗号機A型)です。
日本の暗号機
写真左: 暗号機A型(通称:九一式欧文印字機) レッド:米国陸軍がつけたコードネーム
写真右: Analogs for decrypting RED レッドを解読するためのアナログ
写真上の展示ケースの中には1944年サイパンで捕獲された海軍艦艇用の九七式印字機(米陸軍がつけたコードネームはジェイド)、外務省用の暗号機B型(通称:九十七式欧文印字機)米陸軍がつけたコードネームはパープル、1945年にベルリンの日本大使館から回収されたパープル暗号機のスイッチ部分、パープル暗号機の暗号化されたメッセージを解読するために米陸軍が使用した最初のモデルのパープルアナログ第1号(PURPLE ANALOG No.1)などが収められています。
米国の国章の彫刻レプリカ
展示物を開くと…
冷戦時の1945年にソビエト連邦の学校の子供たちからソ連に駐在していた米国大使へ送られたこの壁掛けは、実は盗聴器で1952年に「盗聴された」ことを発見するまでの間、大使のモスクワの住宅兼事務所にかけられていました。展示物を開くと、内部には共振空洞、マイクが取り付けられるようになっています。
ネイティブアメリカン コードトーカー
固有の部族語をコード(暗号)として前線での無線通信を行うために米軍はネイティブアメリカンの兵士達を暗号通信兵としました。彼らは独自のコードとスキルを使い、特殊な音声通信で敵を困惑させることで何千人もの命を救いました。第一次世界大戦時のチョクトー族によるチョクトーコードトーカー、および第二次世界大戦時のコマンチ族とナバホ族の勇敢な暗号通信部隊の重要な任務について説明と機材が展示されています。
ドライブ中に偶然見かけた「National Cryptologic Museum」の小さな標識に興味をそそられ訪れた博物館でしたが、古代の文字、世界中で話されている言語から始まり、軍事・政治の場面から現代に至るまでの暗号技術の歴史の展示に時間を忘れて見入ってしまいました。また訪れてみたい博物館のひとつです。(TM)
参考情報:
ANA/CSS National Security Agency / Central Security Service
https://www.nsa.gov/about/cryptologic-heritage/museum/exhibits/
Declassified Documents Released to NARA
https://web.archive.org/web/20040603104457/http://www.nsa.gov/public/publi00004.cfm
National Cryptologic Foundation
https://cryptologicfoundation.org/visit/museum/national_cryptologic_museum.html
https://cryptologicfoundation.org/visit/museum/museum_exhibits/videos/american_historytv.html