今から約4年前の2014年、ペンシルバニア州フィラデルフィアで開催されたアジア学会でAinu Pathways to memoryというドキュメンタリー映画のExpoに参加したことがありました。
ドキュメンタリー映画監督は Marcos P. Centeno氏で日本人ではない事にも驚きましたが、映画はアイヌ民族の歴史や文化、アイヌ語を保存する活動について丁寧に掘り下げて作られており、とても見ごたえのある約80分の作品でした。アイヌ民族が北海道、樺太、千島列島の先住民族であり、日本政府(和人)やロシア政府によって土地を奪われ、民族としての権利を剥奪された事や差別に苦しんだ過去なども映画を通して知りました。また、このドキュメンタリー映画を見た後、アイヌ民族についてあらためて自分なりに調べてみました。
アメリカ国立公文書館にはアイヌ関係の資料や写真も保管されているので一部を紹介しようと思います。1949年の新聞記事の切り抜きの為、見えにくいとおもいます。
RG331 Allied Operational & Occupation Headquarters, WWII Supreme Commander for the Allied Powers Civil Information & Education Section Religion & Cultural Resources Division Special Projects Branch Religious Research Date 1945-51 Box5791 National Archives at College Park, College Park, MD
上記は1949年10月9日のサン写真新聞の切り抜きで後楽園球場で開催されたアイヌの祭りである熊祭りの切り抜きと記事の英訳文です。熊祭りとはアイヌの代表的な祭りでアイヌ語でKamuiomsnte(神送り)と言われています。22名のアイヌ人(男性10名、女性12名)が参加し、祭壇の前に置かれた18本のろうそくと直径約30cmの(偽の)お餅の前でお祈りをささげた後に熊を連れてきて、何周かぐるぐる回った後、熊に矢が放たれたと書かれてあります。アイヌ民族では神(カムイ)の国は山奥にあり、神の姿をしたクマが贈り物をもって人間の世界を訪問し、歓迎され、盛大な見送りを受けた後、神の国に帰っていくと考えられていたそうで、熊祭りはアイヌの伝統的な見送りの儀式になるようです。
下の写真は1948年9月に撮影されたアイヌの宮本エカシマトク村長です。熊祭りの為に捕獲した熊を大事に約3年間飼育した後、熊祭りに捧げると書かれてあります。後ろはすべて熊の頭蓋骨だそうです。
Photograph No.5706 RG111-Records of the office of the Chief Signal Officer Contact Prints: Color Photographs of Signal Corps Activities, ca 1944-1981 Box10 National Archives at College Park, College Park, MD
次の写真は伝統的なアイヌの衣装を着ている村長と奥さんで村で唯一の夫婦(Only Couple in the Ainu Village)と書かれています。民族衣装はルウンぺと言い、一針一針心を込めて縫われた渦巻き文様、括弧文様は地域ごとに違い、地域によっては魔物を寄せ付けないともいわれているそうです。首飾りはタマサイといい中国大陸や和人社会から入手したガラス玉で作られているそうです。1番特徴的なのは女性の口の周りや腕に入れた独特な入れ墨でしょうか。理由はいろいろな説があり、はっきりしないようです。
Photograph No.C-5703 RG111-Records of the office of the Chief Signal Officer Contact Prints: Color Photographs of Signal Corps Activities, ca 1944-1981 Box10 National Archives at College Park, College Park, MD
下の写真に写っているのが、北海道白老村のチセと呼ばれるアイヌの家です。チセも地域によって特徴があり、下の写真の様に藁ぶき屋根もあれば笹や白樺を使ったチセなどもあったそうです。
Photograph No.C-5699 RG111-Records of the office of the Chief Signal Officer Contact Prints: Color Photographs of Signal Corps Activities, ca 1944-1981 Box10 National Archives at College Park, College Park, MD
これらの写真が撮られたのは戦後3年の1948年、日本はまだまだ戦後の復興の真っただ中の時期ではないかと思います。当時のアイヌ民族の生活の様子をカラーの写真で実際に手に取って見ることができるというのも、アメリカ国立公文書館分館カレッジパークで仕事できることの特権だと思います。アメリカのネイティブインディアンやオーストラリアのアボリジニと同じようにアイヌも先住民族であり、もっと日本でもアイヌ先住民族の歴史や文化、そして消滅の危機となっている言語を伝承していくことができたら素晴らしいのではないかと思います。(SW)