沖縄に戻った文化財

1945年の3月の終わり頃から始まった沖縄戦で、沖縄には甚大な被害がもたらされました。その後もアメリカの占領下となり、人々は古くから受け継いできた土地を奪われ、軍の施設での低賃金労働や危険な仕事に従事させられてきました。

しかし、このような占領下にあって「沖縄の文化財の返還」に尽くしたアメリカ兵もいました。今回はその人を紹介したいと思います。

 

彼の名前はウィリアム・T・デービスといいます。1948年(昭和23年)より陸軍広報官として沖縄に赴任しました。赴任中のデービス氏は学校で英語を教えたり、沖縄のボーイスカウト創立に関わったりしました。彼の行為に周囲の人々は親しみを抱いていきました。

1951年11月に任期を終えて米国に帰る時、北谷村桃原(とうばる、原本にはTobaruと記載。)の人々から沖縄三味線を餞別としてもらいました。

 

米国に戻ったデービス氏はその三味線を以前から懇意にしていたTVスターでウクレレ収集家のゴッドフリー氏に見せました。また、ゴッドフリー氏は誰かそれを演奏できる人がいないかということをデービス氏に尋ねていました。デービス氏は3カ月間必死で探し、日系二世でシカゴ在住の吉里弘氏に出会いました。そして吉里氏から戦争で奪われた沖縄の文化財のことを聞きました。

 

これをきっかけにデービス氏は米国に持ち帰られた沖縄の文化財を探し、それを沖縄に返すことを決意しました。この時の彼の決意を示す文書が公文書館にありました。

下の文書です。

 

SFC William Davis will study history of Okinawa after discharge from Army.(Ryukyu Shimbun); Ryukyu Islands-Art Treasures Returned (Box No.15), Correspondence 1951-64, Records of the Public Affairs Division (Entry No.A1-61) , Records of the Army Staff, Record Group 319; National Archives at College Park, College Park MD 

 

その後、自らの時間と費用を投じてデービス氏の調査が始まりました。デービス氏は吉里氏からの情報、国務省や税関にコンタクトして、かつて沖縄戦に従軍したマサチューセッツ州に住むスタンフェルト氏が、沖縄からかなりの数の文化財を米国に持ち込んだということを知りました。ボストンの税関はかなり詳しくスタンフェルト氏とその文化財に関わった人たちの調査をしています。その報告書もここ米国公文書館にありました。

 

これはボストンの税関の調査報告書です。

 

Treasury Department Bureau of Customs Boston 9 Mass. May 7, 1953; Ryukyu Islands-Art Treasures Returned (Box No.15), Correspondence 1951-64, Records of the Public Affairs Division (Entry No.A1-61) , Records of the Army Staff, Record Group 319; National Archives at College Park, College Park MD 

 

調査の後、スタンフェルト氏は税関で申告していて密輸ではないこと、そして自分が所有しているものが沖縄に返されるべき文化的価値があるものならそれは沖縄に返すということに同意しました。そのため特にお咎めはなかったようです。

 

1951年にデービス氏が米国に戻ってきてから、1953年までの2年の年月をかけて見つけられた数ある文化財の中でも、とりたてて重要なものは『おもろそうし』(全22巻)です。『おもろそうし(おもろさうし)』は琉球王国第4代尚清王代の1531年から1623年にかけて首里王府によって編纂された歌謡集で、文学としての価値はもちろん、歴史を解明する上でも貴重な資料です。

 

この写真は『おもろそうし』ではないですが、返された宝物のうちの一つです。

眼鏡をかけて宝物を見ている左手の男性がデービス氏です。

 

Dedication of Shuri Museum 29 May 53; Ryukyu Islands-Art Treasures Returned (Box No.15), Correspondence 1951-64, Records of the Public Affairs Division (Entry No.A1-61) , Records of the Army Staff, Record Group 319; National Archives at College Park, College Park MD

 

1853年のペリー提督来沖から100周年にあたる1953年に、米国国務省から『おもろそうし』(全22巻)を含む文化財が沖縄に返されました。デービス氏はこの時に米国政府の代表として沖縄を訪れ文化財返還の式典に参加しました。

 

この写真は宝物返還のセレモニーの写真です。中央がデービス氏です。

 

Dedication of Shuri Museum 29 May 53; Ryukyu Islands-Art Treasures Returned (Box No.15), Correspondence 1951-64, Records of the Public Affairs Division (Entry No.A1-61) , Records of the Army Staff, Record Group 319; National Archives at College Park, College Park MD

 

次の文書はホワイトハウスからデービス氏に宛てたもので琉球政府に『おもろそうし』を返還したことに対する労いのメッセージです。

 

The White House Washington July 6, 1963; Ryukyu Islands-Art Treasures Returned (Box No.15), Correspondence 1951-64, Records of the Public Affairs Division (Entry No.A1-61) , Records of the Army Staff, Record Group 319; National Archives at College Park, College Park MD

 

米国公文書館にある文書は堅い内容のものが多いのですが、こういった人間味あふれる資料に出会った時は嬉しく思います。(MU)