米国国立公文書館所蔵のテキスト資料の中には、色々な形態の参考資料が含まれていることがあります。写真や地図資料はよくあるのですが、「米国戦略爆撃調査団」資料の中に3D写真(立体写真)とそれを見る3D用のメガネが含まれていました。
とても珍しいことです。
こんな感じです。
これは何の写真かというと雲龍型航空母艦の「天城」です。破損の状態を3D写真で記録しています。
メガネをかけて見るとこのように見えます。
Evaluation of Photographic Intelligence in the Japanese Homeland Part Six Shipping, 103[2 of 3], 101 to 104 Pacific Survey, Published Reports of the European and Pacific Surveys 1945-47, Office of the Chairman, Records of the U.S. Strategic Bombing Survey, RG 243 Entry I-10 2 Box 133; National Archives at College Park MD 上の4枚全て。
上手に撮影できませんでしたが、肉眼でメガネを使って見た時は立体感がもっとはっきりしています。
今でこそ3Dは映画やゲーム機など日常生活で接する機会が多いのですが、この冊子は1946年6月付のもので、3Dがそんな時からあったことに驚きました。
3Dのアイデアというのは古くからあったようですが、1840年頃にイギリスの物理学者であるチャールズ・ホイーストン(Charles Wheatstone)がステレオスコープという立体感を生じさせる装置を作りました。その後万華鏡を発明したディビッド・ブリュースター(David Brewster)が1849年にステレオスコープの実用化に成功しました。 それは双眼鏡のような形をしていましたが、1851年のロンドン万国博覧会で公開され当時のヴィクトリア女王が大変興味を示されました。
今の3Dメガネの原型となっている赤青メガネ(アナグラフィック)を使っての3Dはドイツ人のウィルヘルム・ロールマン(Wilhelm Rollman)によって考えられました。1858年にはフランス人のジョセフ・ドール・アルメイダ(Joseph d’Almeida)が観客に赤青メガネをかけさせて幻灯機でスライドを見せる実験をしたのが最初の赤青メガネの使用とされるようです。1889年にイギリス人の写真家であるウィリアム・フリーゼ-グリーン(William Friese-Greene)が3Dアナグラフィック映画を作りました。それから1920年代くらいまでは3D映画は人気があったようです。3Dという言葉は当時はなくて1950年代に作られたもののようです。
日本では江戸時代末期に立体写真が伝わってきたようです。写真家/洋画家の横山松三郎が国内で初めて立体写真を撮り始めたのが1869年です。薩摩藩の最後の藩主、島津忠義は写真好きでかなりの数の立体写真を撮りました。その作品の一部は鹿児島市にある尚古集成館に所蔵されています。徳川幕府最後の将軍、徳川慶喜は多趣味かつ新しいものが好きで写真撮影がその趣味の一つで立体写真も多く撮影したようです。
3D写真が西洋とさほど時期も変わらずに日本にも入ってきていたようで意外でした。江戸末期は時間の流れが速く、新しいうねりをこういうことからも感じます。
また、文学者の正岡子規は病床についていた時、ステレオスコープを入手して立体写真をたくさん見ていたそうです。
現在、3Dの画像や映像は軍事では不可欠なものとなっています。この資料はその先駆けだったのでしょうか? 今まで3Dのことは何も知らなかったのですが、この機会に色々調べることができて知識の幅が広がったような気がします。(M.U.)
※参考にしたサイト:
■3D写真は幕末からあった
http://www.asahi.com/kansaisq/kaihou/no130/kaiin/
■3D Photography-The Ultimate History Project
http://www.ultimatehistoryproject.com/3d-photography.html
■The History of Stereo Photography
http://www.arts.rpi.edu/~ruiz/stereo_history/text/historystereog.html
■Anaglyph 3D
https://en.wikipedia.org/wiki/Anaglyph_3D