米国国立公文書館には、テキスト資料、写真、映像、地図、マイクロフィルムといった形態の資料の他に音声資料もあります。カセット、CD、テープの3種類があります。
カセットやCDは馴染みがありますが、Audio Reelsというカセットテープ出現以前のテープはご存じない方も多いと思います。
これがAudio Reelsというテープです。
筆者撮影
このテープを聴くにはこういった器具を利用します。
筆者撮影
公文書館に所蔵されている音声テープの中には日本語の音声テープがあります。(RG243)それらは1945年11月中旬から12月の終わりにかけて、米軍が行った日本国民に対するインタビュー調査のテープです。
何本かのテープを聴いてみると、この調査の趣旨が話されているものがありました。「米軍を代理して今、日本国民の戦時中の生活状態について色々訊きたいことがある。感じたことや思ったこと、将来どういう変化が必要かということが訊きたい。答えてもらったものは英語に訳して司令部に送られ、米国にも送られそこで検討され、今後の進駐軍司令部のやり方に反映される。」とのことです。
各地でインタビュー調査がされていますが、特別に特定の人を選んでいる訳ではなくくじ引きで選んでいるので、年齢・性別・職業には関係ないとのことです。
質問は何種類かありそうですが、同じ日に同じ場所で同じ質問に答えているテープを見つけました。1945年11月18日に大阪で録音されたもので、1つは中年の主婦の方が答えており(Sound Recording 243-58, Reel 1-2; Interview of Female house wife, middle aged by Mayer in Osaka, Nov. 18 1945; Records of National Archives and Records Administration, Record Group 243; National Archives at Collage Park, Collage Park MD)、もう1つは中年の男性が答えています(243-59, Reel 1-3; Interview of Male average by Aoki in Osaka, Nov. 18 1945; Records of National Archives and Records Administration, Record Group 243; National Archives at Collage Park, Collage Park MD )。
女性は中学校をちょうど卒業した息子がいて、ご主人は10年間ずっと病気で働けず、この方が主に家庭と家計を支えていたようです。男性は40代前後で現在無職。奥さんと6才の娘がいるとのことで、元々は鋳物工でした。
このインタビューの内容を少しご紹介したいと思います。
(質問)色々な点について生活状態はどうですか?
(女性)食糧不足がこたえる。食糧を増やして欲しい。 職業もなく、みな失業状態。学校を卒業しても仕事がなく、自分の子供も中学校を卒業したがどう導いてやっていいのか不安。友達も同じ悩みを抱えている。
(男性)食べ物の不足。仕事がない。
(質問)全てにおいて戦時中より今の方が良いと思いますか、悪いと思いますか?
(女性)今の方が良いと思う。
(男性)今の方がいい。
(質問)どういう点において良いと思いますか?
(女性)平和という点で色々遅れているので、こうなった方が私たちも幸せであると思う
(男性)戦時中工場に勤めていた時は体が悪くても休めず、窮屈な生活をしていた。食料も今より少なかった。空襲警報で神経をとがらせていたのは今はない。
(質問)戦争が終わりましたが今後2-3年は家族も含めどういう生活をされると思いますか?
(女性)困難なものとなるだろう。食糧不足のため。夫と両親、子供の職業、冬からの生活が一体どうなるだろうかというのが一番の心配。
(男性)これから苦しい生活をするであろう。食糧が欠乏してくるし。食糧さえあれば心配はないけれども。
(質問)これから先、日本はどんな風に変わらないといけないと思われますか?
(女性)進駐軍の指導の下、平和になっていけたらいいと思う。
(男性)今まで暗いいじけた生活をしていたので、ほがらかな生活にならないといけない。やはり空腹をなくして仕事を得ると気分も明るくなる。
(質問)進駐軍司令部が取っている方針についてどう思われますか?
(女性)特にないです。
(男性)とても良いと思います。喜んでいます。電車に乗る時も子供や年寄りを先に乗せニコニコ笑っている進駐軍の人を見るとあちらの行いは正しいと思った。 今まで上の者にだまされてきたのがはっきりと分かった、そして進駐軍を尊敬するようになった。ただ、食糧事情が良くなれば。
(質問)戦時中お互いのふるまいや態度が変わりましたか?
(女性)変わっていない。
(男性)変わった。食べ物のこともあり自分のことで精いっぱいで人間関係がぎすぎすしてしまった。人のことまで構ってられない。思想が悪く、電車の中でも喧嘩が多かった。田舎の人が不親切になり都会人の方がお互い気が合い親切。
以上はごく一部ですが、食糧難と職業難が深刻であったことが伺えます。男性の答えから戦時中の一般庶民の生活や精神状態はかなり虐げられたものだと察することができます。
この女性は仕事でも家庭でも大変忙しかったようで、「働くばかりで考えたことがない。」「朝6時30分から残業9時までなので新聞を読む時間がなかった。」と他の質問を聞かれた時に答えています。これも当時の庶民の一つの姿でしょう。一般の人の何気ない言葉からも当時のことを色々と考えることができます。
戦後70年ですが、70年前の人たちの生の声を日本国外で聴けるというのは興味深いです。
(MU)